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「美」を基準に考え、行動するということ『美の進化ー性選択は人間と動物をどう変えたか』

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 ピクスタを率いるブレーンたちが影響を受けた書籍を紹介するこのコーナー。今回の1冊は、取締役CCOである内田の本棚からピックアップしました!

どんな本か

 ダーウィンの有名な著書『種の起源』で示された「適応的自然選択」。よく言われる環境に適応したものが生き残っていく、という説です。しかし、実はその後に同じくダーウィンによって書かれた『人間の由来』では、適応的自然選択とは別個の進化機構として、「配偶者選択(=性選択)」が提示されました。これは、闘争による性的支配に勝つための進化と、個体の選り好みによる「美に基づく進化=審美進化」を提唱したものです。

 本書は鳥類学者である著者が鳥類の行動観察などを通して、このうち「審美進化」のプロセスを解き明かしていくものです。環境適応的かどうかだけでなく、単純に「美しいかどうか」という基準によって配偶者を選択することが、進化にとって重要な要素であるということがわかってきます。

 そして、この「美」による進化が、自然界に見られる並外れた多様性を実現させているのです。僕は鳥類、特にメスの持つ美意識の高さに感動すら覚えました。

はじめに

 僕が本書を読もうと思ったのは、社会の論理や動向ばかりに流されるのではなく、もっと「美」というものを基準に物事に向き合ってみたくなったためです。

 ピクスタではストックフォト制作の一環として、PA(パンアジア)という、アジア諸国共通で使うことのできるコンテンツの制作に、ここ数年トライしてきました。その制作現場に立ち会いながら、各国の人々が良いなと感じるイメージの共通点を探りつつも、より違いへの気づきが深まる中で、本書に出会いました。

 各国の「違い」は、単に造形の差異だけではなく、それを「いいと思うかどうか」の価値基準の違いでもあるのです。その違いはどこから生まれるのか、と考え始めたところがスタート地点でした。

 この問いかけの背景として、ニーズの大きい、売れ筋のコンテンツに集約されがちになるというストックフォトビジネスの課題がありました。そこでクリエイティブの多様化への可能性を模索するために、芸術書や哲学書、美学の書籍などを読み漁りました。その過程で本書のことを知ったのです。

 本書はボリュームもあり専門的な要素も多く含んでいるため、全体像を理解するのには時間がかかることでしょう。しかし、その中でも自分なりに掴んだことをご紹介できればと思います。

「美」の進化プロセス

 まず、確実におさえておきたいポイントとしては、美の進化の基盤となる仕組みとして提示されている「共進化」という概念です。

「性選択の働きを理解すると見えてくることは、欲望と欲望の対象が共進化するという驚くべき事実である。後で詳しく述べるが、性的魅力のほとんどは共進化によってもたらされたものである。(中略)自然界にみられる並外れた美の多様性は、この共進化のメカニズムによってもたらされたのだ。」

ーー引用『美の進化ー性選択は人間と動物をどう変えたか』P.19より

「ダーウィンの配偶者選択説のもう一つの特徴は、それが共進化する点である。特定の誇示形質と配偶者選択に用いられる「美の基準」は互いに影響を及ぼし合い、強化し合ってともに進化するという仮説を提唱しているのだ。」

ーー引用『美の進化ー性選択は人間と動物をどう変えたか』P.37より

 見るものと見られるもの、求めるものと求められるもののフィードバックの連鎖が互いの変化を促し合う永遠の交換プロセス(=共進化)に至り、「美」そのものの進化(=審美進化)につながります。

鳥類の世界

 鳥類学者である著者は本書の中で、鳥類の行動観察の豊富な事例を用いながらこの審美進化の世界に入っていきます。

  例えば、セイランという鳥のオスの形質について。

 環境への適応という視点だけでは説明のつかない過剰なデザインと、外敵から身を守るにはあまりにも不便すぎるサイズと形をした羽。これらはメスに対するアピールのためだけに進化したものと考えられていますが、いわゆる「モテたい」という感覚とは少し異なります。あえていうなら「選ばれたい」。

 セイランの配偶者選択の過程において主導権はメスにあり、慎重にオスを選びます。メスは「なんかいい!」だけではない厳しい審美眼を持っています。だからセイランのオスはそんなメスの高い要求に応えるべく、彼ら自身の美しさを強烈に進化させていくのです。

 他にもカタカケフチョウの羽を大きく広げる求愛ダンス、キガタヒメマイコドリの羽で奏でる歌……いずれも、進化の意味を環境適応的であるかのみで捉えると、一見無駄なものに見えてしまうような形質や行動です。

 そしてここが一つのポイントですが、メスが主体的に異性を選り好みする種ではオスの美的形質が進化します。これはメスの「美による改造」が働いていると考えられています。他方、オスが主体的な種ではオス同士の競争に打ち勝つための進化、つまりメスを闘争的に獲得する為に有利な角や嘴などの形質が進化します。

 つまり、どうやら「美」とはメスが性的に自律している環境下で進化が促進されているようです。

人間社会

 人間社会はというと、著者の学者グループを含めて有力な学説の方向性としては、人類の言語や認知能力の発達に伴った「文化的背景」が、生物学的審美進化にさらなる変化を加えているという考え方が勢いを増しているようです。

「美による改造は女性の性的自律性を大いに促進したが、その後に文化が進化したことで、性的対立をもたらす新たな文化機構が生じたと私たちは考えている。つまり、男性の権力や性的支配、社会的階級(父権制)といった文化的イデオロギーは、進化によって拡大した女性の性的自律性に対する対抗手段として、(中略)(男性が)支配を再び確立するために発達したと考えている。」

ーー引用『美の進化ー性選択は人間と動物をどう変えたか』PP.384−385より

 人類の祖先に「美の改造」が大きく働いてきた時代の後に続く文化の発達は、人類史という時間軸では比較的最近起きたもので、農業の発明とそれに伴って発展した市場経済が大きな要因とされています。

 前段でも紹介しましたが、鳥類の世界でもオスが主体的な種では同性同士で非常に闘争的です。同じように、人間社会も長らく続いた男性優位社会が戦争や競争といった争いの絶えない世界であったと考えるならば、父権制社会は、鳥類で見るとオスが優位な種の生態と同質であると言えるでしょう。

 しかし、この父権制については大いに疑問のある状況にきていると、個人的には考えています。例えば#MeTooやフェミニズム運動、LGBTQ+への関心の高まりといったように、進化という観点から捉えると、闘争的権威主義的社会を作り出してきた制度のパラダイム転換の芽がいたるところに生まれてきているように思えます。

 変化の初動と現実認識にはタイムラグがあるものです。我々人類の社会は、何千年という歴史のなかで闘争と美の主権争いが何周かした末に、現代の「美による改造」が主導する世界が再始動し始めていると考えることもできるのです。

美とビジュアルイメージ

 この本を読み終えて特に感じたことは、物事の判断基準において「美」の優先度を高めることの意味です。

 例えば仕事柄、普段からビジュアルイメージについて様々な角度から考えるよう努めていますが、「市場性」や「世の中のトレンド」などのマーケティングデータや、目や耳にする文化等から発信される客観的要素を重視する傾向があります。

 それはまさに適応的自然選択(=競争に勝とう!)に相当するアプローチに近いともいえます。適応的自然選択の優位な世界で勝ち残るものが、特定の環境適応的な形質に集約されていくことは、ビジュアルイメージが市場ニーズによって、売れ筋として類似コンテンツに集約されていくことと本質的に相似であると考えられます。

 しかし、本書では「美」は本来、もっと主観的なものであるということが一貫して示されています。美しさの基準は「機能適応性」という客観的な指標ではなく、それぞれの種における「美しいと感じるかどうか」という主観的かつ多様な感覚に委ねられているからです。その結果、その主観美の集積が自然界に多様な美をもたらしているのだという捉え方に、大いに刺激を受けるとともに、少し勇気というか新たなやりがいのようなものも感じました。

 ビジュアルイメージ分野を専門にしている身として、このような「主観的な美」の要素を判断基準の中に含めていくことは、現実的には若干の勇気が必要です。なぜなら「ニーズの把握」を念頭に競争的市場の中でビジネスとして成立・成功させていく行為と矛盾する場面もあるからです。

 この「主観的な美」というものを言語化することは容易ではありません。しかしそういった「個々の美の集積」の提示の仕方によっては、今とは異なるビジュアルイメージの世界が広がっていくかもしれないと思うと、ワクワクが止まらない自分というものもまた再発見しているのです。

 例えば、クライアントからのオーダーが先行することで制作されるものではないストックフォトだからこそ、自らの提案するイメージが社会の変化と共進化していくことができるかもしれません。現時点ではニーズとして芽生えていないものでも、それを提示することで、社会に多様性を生む進化につなげていけるかもしれない。ビジュアルイメージや社会全体の多様性を、より広げていく先駆けとなりうる可能性を秘めていると感じています。

 もし、本書で提示されているような、客観的要因によってだけではなく個々の主観によって起こる「美の共進化」「美による改造」がビジュアルイメージの分野にも適用されうるとすれば、その世界は一変するかもしれません。それは市場の客観的分析データ活用を促進させることと並行して起こりうるのでしょうか。そして「美の基準」による判断軸を確立することで導かれるビジュアルイメージ群が溢れる世界はどのようなものなのでしょうか。

 そう考えると、ビジュアルイメージ市場の世界においても「美しいかどうか」という判断基準を、もっと積極的に取り入れていっても良いのではないかと思えてきます。

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終わりに

 本書を読むきっかけとなった「美しさの多様性がなぜ生まれるのか」という疑問に対する解は、まだまだ僕の中で咀嚼し切れていません。

 しかし、本書を読んで、もっと主観的な「美」の基準にしたがって行動する世界とはどういうものだろうかと、ビジュアルイメージの分野に置き換えて考えてみるきっかけになりました。もっと追求し、学びを深めていきたいと思っています。

 美の多様性に興味のある全ての人に読んでもらいたい一冊です。

内田 浩太郎(Koutaro Uchida)

ピクスタ株式会社 取締役CCO 兼 海外事業本部長

1966年5月生まれ。東海大学 政治経済学部卒業後に株式会社ワールド証券(現 株式会社SBI証券)に入社、法人・個人営業を担当。
その後ベンチャー企業数社を経て 株式会社GEキャピタル・エジソン生命に入社、ソリューションアドバイザーに。
2000年3月 株式会社ダイレクトプラネット設立に参加、取締役営業部長に就任。
2001年8月 株式会社フォトスタイルの設立に参加、常務取締役に就任。
2004年1月 株式会社インディードを設立、代表取締役に就任。広告写真プロデュース・スタジオ運営・ストックフォトプロダクションに従事。
2006年6月 株式会社オンボード(現 ピクスタ株式会社)取締役に就任。
2017年3月にTopic Images Inc. 理事就任、2019年1月にPIXTA ASIA PTE.LTD. Managing Director就任(すべて現任)。

 

(執筆:取締役CCO 兼 海外事業本部長 内田 浩太郎)